どんなに仕事ができる人であっても、転職後に自分のキャリアの行く末に不安を抱くことはあるものです。
「競争とか成長がついてまわる世界に疲れてしまいました。」
「自分の本当の姿は、そういう世界で活躍したい自分とは違っていたということに気がついたんです。」
「それで、転職後にうまくいかない自分がいて、しばらく仕事を休んでみようと思います。」
先日、バリバリと仕事をこなしていたキャリアウーマンの方から相談を受けました。
40歳を前に転職したものの、うまく適応できず、自分の将来をどうデザインするか迷っているとのことでした。
話を聞いてみると、うまく適応できない理由がすこしずつ見えてきました。
【目次】
1.仕事をしているときの自分
ハイパフォーマーだった彼女は、会社でも重要なポストについていました。はたから見ると順風満帆なキャリア。将来は約束されていたように見えていました。
仕事に新しい価値を創りだすことに意欲的。
仕事の進め方もロジカルでスマート。
理路整然とした話ぶりからは、クリエイティブなキャリア観を持っている人という印象がありました。
彼女にその印象を伝えたところ、意外な答えが返ってきました。
「たしかに、仕事上はそういう自分ですね。でも、本当の自分は、人見知りで、内向的で、柔軟性もなく、人と交わることが苦手なんです。新しい会社では、その本当の自分の方が大きくなってしまって。」
「本当の自分が持ち合わせていない競争とか成長を追い求め、背伸びし続けていたんです。」
競争や成長を否定してはいないものの、本来、彼女はそれを求めていなかったことが見えてきました。
2.本当の自分
彼女が表現した「本当の自分」は、「正解を求める自分。0か1かの二者択一を求める自分。実はマニュアルが大好きな自分」でした。
厳格な両親とのかかわりの中で、常識と照らし合わせて正しい行動をすべきと教えられたことが窮屈でしかたなかった彼女。
その反動で、常識にとらわれない柔軟な発想が求められるクリエイティブな仕事に憧れを抱いたようなのです。
クリエイティブな仕事への憧れが「背伸びした自分」となって、「仕事をしているときの自分」と「本当の自分」の違和感につながっていることがわかりました。
3.環境の変化がうみだすこと
「仕事をしているときの自分」と「本当の自分」の違和感は転職前もあったはず。
どうして、転職後に違和感が大きくなったのでしょうか。
「本当の自分は、自分よりも優秀な人に囲まれているとき、自分の経験や知識が不足していて手も足も出ないときに現れるんです。自分がかかわる周りに対してコンプレックスを感じたときに、殻に閉じこもるように「本当の自分」に逃げ込んでいるようです。」
周りに対してコンプレックスを感じたとき、保守的な「本当の自分」が大きくなり、クリエイティブに動ける「仕事をしているときの自分」ではなくなる。
仕事の場面にかかわらず、コンプレックスを感じたときは、この公式通りに心が動くことが見えてきました。
つまり、転職直後にうまくいかない原因は、コンプレックスを感じていることだったことがわかりました。
4.環境の変化に翻弄されないために
自分の思い描いていた通りにならないとき、目の前のできごとに意識が集中してしまいます。そういうときに意思決定すると、視野が狭く、的確な判断ができなくなる可能性が高くなります。
私に相談した彼女は、本来の利発さもあり、原因をつかんだことで前向きな意思決定をすると思いますが、あらかじめ心の動き方を認識していれば、自分の活かし方が変わったかもしれません。
キャリアの転換期は、想定できないことが起きるものです。仮に想定問答を準備したとしても、想定できる事案に限りがあるため、想定外の事案には、環境の変化に適応できない可能性があります。
しかし、自分の心の動き方を認識できていれば、キャリアの転換期に自分のありたい姿を保つことができます。
想定外のできごとに対して心が乱れたとしても、自分のありたい姿と心の動き方を重ねわせることで、自分を落ち着かせることができます。
5.まとめ
自分を落ち着かせることは、メンタルコントロールすることとも言えます。
メンタルコントロールは、自分のありたい姿を保つためにとても重要です。
超一流のプロテニスプレイヤーが些細なミスからメンタルコントロールを乱し、本来の実力を発揮できなくなることからも、その重要性は明らかです。
どんなに優秀なビジネスパーソンでも、心の動き方を見誤ると、本来の実力を発揮できず、自分の居場所が見えなくなります。
転職後に成果をあげ、充実したキャリアを築くためには、自分の心の動き方をしっかりと見極めておくことが大切です。
自分の心の動き方を把握できていれば、想定外のことに対峙しても、冷静に対応できます。よりよいキャリアが開けてくるのです。