「今の会社に残った方がいい」と考えてしまう原因は、自分が現状維持モードの罠にはまってしまうことにあります。
45歳を過ぎて自分のキャリアを自分の意思で判断することが難しいのは当然のことです。
しかし、その難しさのゆえに、的確な準備を怠り、自分の「直感」に頼ることは危険だと、私は考えます。
すくなくとも、自分の意思で「そのときのベスト」という決断をする必要があります。その決断は、主体的かつ自律的な「じぶん」が、腹落ちした決断です。
ほかならぬ「じぶん」が、「じぶん」の責任として、「変わること」を選択するならば、たとえ結果が思うようにいかなかったとしても、冷静に受けとめ、次の打ち手を模索することができるからです。
覚悟の問題だと感じます。
覚悟が決まらないと、自分の「直感」に頼ってしまい、迷いが深まる結果を引き寄せてしまいます。
「根拠のない自信」の魅力
このシリーズにたびたび登場するSさん。彼が「じぶん」の「直感」に頼ってしまったのは、もう一つきっかけがありました。
彼には、独立起業して活躍している友人が多くいました。40歳を過ぎて自分のキャリアを変えようと考えたとき、彼はその独立起業して活躍している友人に相談したそうです。
「転職しようと思っているんだ。自分の経験とスキルを評価してくれる会社があるから。今、そこからオファーをもらっているんだけれども、やっていけそうか不安があるし、今の会社に残る方がいいかもしれない。迷っているんだ。キャリアを変えて独立起業しようとしたとき、どうしたかな?」
迷っている彼に対して、相談したすべての友人は、こうアドバイスしてくれました。
「たしかに不安はあったよ。でも、なんだかよくわからないけれども、自分はできるという「根拠のない自信」があったんだよね。だから、なんとかなるように思えたんだよ。なんとかなるもんなんだよ、「根拠のない自信」があればね。」
迷いのまっただなかにいたSさんは、この「根拠のない自信」という言葉に魅かれたと振り返ってくれました。
「じぶん」の中にわずかに残っていた「じぶんに対する自信」を感じていたからです。
「「根拠のない自信」か・・・。たしかに俺にもあるな。そうか、「根拠のない自信」を信じればいいのかもしれないな。」
「根拠のない自信」は必要。しかし、前提がある。
連載3でお伝えしたように、会社に所属していると、人事異動によって、他律的に自分のキャリアが変わることが多いため、自ら「じぶん」のキャリアを考える機会はめったにありません。
「じぶんが〇〇をしたい!」という意思を持って会社の中で部署を変える機会は、社内人材公募等の機会を除くと、それほど多くないからです。
そのため、「今の会社に残った方がいい」という考えから抜け出そうとしているSさんは、が「じぶん」に残っている「根拠ない自信」を「直感」と捉えて、そこに「腹落ちした決断」の根拠を見出してしまいました。
「根拠のない自信」は必要だと思います。
しかし、それを裏付ける何かがないとハリボテの「根拠のない自信」をホンモノの「根拠のない自信」と錯覚してしまうことがあるので、注意しなければいけません。
Sさんの感じた「根拠のない自信」は、いわばハリボテでした。
なぜならば、ホンモノの「根拠のない自信」を形づくる根拠がなかったからです。
根拠を形づくる的確な準備
この連載を通して、つぎの2点を認識することが大切だとお伝えしてきました。
-
人は変化を嫌うもので、変化が伴うときは強烈に現状維持モードになること
-
現状維持モードは、大きく、難しい決断に迫られているときに、緊張状態を生み出し、アタマとココロが冷静に判断する余裕をなくすこと
決断が難しいとき、人は思考停止状態に陥ることが往々にしてあります。その思考停止状態は、必ずしも心地よいものではないので、なんとか帳尻を合わせようとします。その帳尻を合わせようとするときに、「直感」に頼ってしまうことがあります。
Sさんが誤解してしまったことがあります。
それは、Sさんが相談した独立起業している友人のアドバイスとしての「根拠のない自信」とSさんのそれはそもそも性質が根本的に異なっているということです。
「今の会社に残った方がいい」と「転職する方がいい」という選択肢に迷いがあるときは、「じぶんが何をしたいのか?」ではなく、「じぶんが〇〇になっていたい。」という思いを持ってしまいがちになります。(〇〇には、「認められたい」や「チカラを発揮したい」という思いが入ることが多いです。)
Sさんの場合、「じぶんの経験とスキルを評価してくれる状態」を望んでいたわけですが、彼が相談した友人は、「じぶんは、〇〇をやりたいから独立する」を望んで実行していたわけです。「根拠のない自信」の性質がこのように違っていたにもかかわらず、性質が違うということを認識せず、同じ「根拠のない自信」と錯覚して捉えてしまったことに問題があったわけです。
Sさんが頼った「根拠のない自信」に欠けていたことは何だったのか。
そして、それに基づく「直感」に欠けていたことは何だったのか。
それは、「今の会社に残った方がいい」と「転職する方がいい」という選択肢について、詳細に分析し、冷静に比較検討していないことにあります。Sさんはアタマのなかで、悩み、考えることをしていました。的確な準備という点で欠けていたことは、それらを「見える化」していなかったことにあると、私は考えます。
具体的には、じぶんのアタマの中をうごめいている悩み、不安を「手書きで、紙に書き出し、自分の目で確かめることができる」状態をつくることが足りていなかったということです。
まとめ
今日のテーマである『なぜ、「根拠のない自信」という「直感」に惑わされてしまうのか』は、端的に言うと、覚悟が決まらないがゆえに、易きに流されてしまうからだと、私は考えます。
腹落ちするために必要な材料を十分に比較検討することなく、そして、決断に迷うがゆえに思考停止してしまう。そして、「根拠のない自信」という言葉の美しい響きに引き寄せられ、それを正しい「直感」だと錯覚してしまう。
こういうことは、Sさんの例にもれず多くみられるのではないでしょうか。
的確な準備には、労力が必要になります。時間が必要になります。
考えてみれば当たり前のことです。40歳を過ぎて自分のキャリアを大きく変えようとするわけですから。
大切なことは、何に労力と時間をかけて、的確な準備をするかということです。やみくもに取り組もうとしても、「労多くして好少なし」という残念な結果になってしまいます。
私は、的確な準備にはフレームワークをもとに取り組むことが必要だと考えています。
フレームワークに基づいて、しっかりと自分を掘り下げることが、労力と時間に相応しい結論に到達する近道だからです。
そのためには、労力と時間をかけて、「ゆっくり、いそげ」というマインドを持つことが大切です。
本日も、お読みいただきありがとうございました。
(明日の連載に続きます。)
【参考:本シリーズの過去記事です】
連載1:迷いが大きくなる原因は?
hiratsukacareer.hatenablog.com
連載2:「直感」に頼ることの危うさ
hiratsukacareer.hatenablog.com
連載3:現状維持モードの危うさ
hiratsukacareer.hatenablog.com