「今回だけは、どうにも違うんですよね。いままで、迷いがあっても結構あっさり決められていたのですが。」
「転職したい気もするけれども、決断できないです。」
48歳の方から転職の相談を受けました。
管理職のポストにいるその方は、今の会社での自分のポジションに不安を感じて、転職エージェントに申込みされました。
転職活動を経て、ある企業から内定通知を受けたものの、その後、決断ができずにいるとのこと。
20代、30代と異なり、45歳を過ぎてからの転職は残りの社会人としての期間を考えると、「失敗」してはいけないというプレッシャーがかかります。
たとえば、45歳で転職して3年経過すると48歳。良い条件での転職の機会は減ることが予想できます。「失敗」してはいけないと考えるのは当たり前のことです。
挑戦したいものの、失敗してしまうと、自分の無能感も感じてしまいます。
失敗を恐れ、無能感も味わいたくないという感情は、決断する思考を停止させます。その結果、転職の迷いが生み出されているのです。
もっとも、45歳を過ぎてからのキャリアの転換期であっても、①スキル、②環境、③キャリアの軸をチェックすることで、迷いを断ち切ることは可能です。
そこで、今回は、転職すべきか否かの迷いを断ち切るポイントをお伝えしたいと思います。
【目次】
1.自分のスキルの3年後を見極める
自分のスキルは、実務遂行力であるテクニカル・スキル、対人関係能力(コミュニケーション能力)であるヒューマン・スキル、課題形成力や問題発見力(構想する能力)であるコンセプチュアル・スキルの3つに分類できます。
最初に確認することは、今までの職務内容とそれに伴う実績との関連です。関連が明らかになる、保有しているスキルの程度がわかります。
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そして、どのような経験がその実績につながったかを関連付け、3つのスキルに振り分けます。振り分けた後に、その一つひとつを専門性、汎用性、将来性の視点で評価します。
専門性、汎用性、将来性の3つの視点で評価すると、自分の保有するスキルについての他社での通用性が見極められます。
他社でも通用するプロフェショナルなスキルであるか、今の会社では通用するスキルであるか、あるいは未熟であるか。スキルのレベルが見極められるのです。
さらに、3年後を想定して、自分が保有するスキルが成長しているか否かを想定します。想定する際は、専門性、汎用性、将来性の3つの視点で捉えます。転職先および今の会社、それぞれにおいての成長度合いを想定することが大切です。
2.自分を取り巻く3年後の環境を見極める
つぎに確認することは、自分を取り巻く環境についてです。転職の決断は直接的には仕事にかかわることですが、私生活のことを無視することはできません。
確認する視点は、「会社」「上司・部下・同僚」「仕事」「プライベート」の4点です。この4点にかかわる「現在」と「3年後」をそれぞれ想定するのです。
具体的には、つぎのような確認を行います。
2-1:会社
自分の価値観と会社の経営理念、ミッションの方向性を確かめる。
自分が、会社の掲げている経営理念、ミッションに共感できるか否かは働くうえでとても重要な精神的基盤になります。自分の価値観との共感度合いを確認します。
転職先の会社と今の会社について、「本音」の部分で共感度合いを確かめておかないと、「価値観の相違」という気持ちが離れる要因が生じやすくなるからです。
2-2:上司・部下・同僚
ともに働く人との関係性を確かめる。
ともに働く仲間との関係性、仕事で能力を発揮する際に軽視することはできません。
転職の直接的な原因の上位に「職場の人間関係」が挙げられていることからも、そのことは明らかです。
たとえば、「現在」と「3年後」を踏まえて、つぎのようなことを想定してみるのです。
(1)今の会社で人間関係に悩んでいたとして、転職先の会社で同様のことで悩むことはないか。
(2)今の会社での人間関係の悩みを、解消する方法はないか。
(3)転職先の会社で、同僚と適応する自信があるか。
2-3:仕事
自分の能力をどのように発揮し、会社にどのように貢献できるかを確かめる。
仕事は実績を出す場です。自分の能力を発揮して実績を出さなければならないのが仕事。現在の会社と転職先の会社で、どちらで仕事をすることが自分にフィットしているかをイメージします。
たとえば、現在の会社に留まるとして、3年後はどのような貢献ができているか。また、転職先する場合、3年後はどのような貢献ができているか。
無理なく想定できているのはどちらでしょうか。
2-4:プライベート
自分の人生の方向性、家族(配偶者、子ども、親等)との関係性を確かめる。
人生は、「キャリア」と「ライフ」の2本の柱があります。転職は「キャリア」の問題ととらえがちですが、「ライフ」の視点で捉えることが重要です。また、家族との関係性も軽視することはできません。
転職することは、自分の人生においてどういう意味があるでしょうか。
「自己成長」「貢献」「自己重要感」「安定」「挑戦」「人とのつながり」。
現在、これらの何が満たされ、何を失っているでしょうか。
そして、3年後。これらの何が満たされ、何を失っているでしょうか。
転職する場合と、現在の会社の留まる場合で、それぞれの自分の感情の動きを認識することが重要です。
さらに、配偶者や子どもがいると責任も増します。現在の会社に留まる場合と転職先する場合で、3年後を想定し、どちらで仕事をしていることが自分の責任を果たせているかを見極めるのです。
3.自分が大切にしたい3年後のキャリアの軸を見極める
最後に確認することは、自分のプロフェッショナル性についてです。自分は何のプロでありたいと考えているかを確かめることです。
自分のスキルや取り巻く環境を「現在」から「3年後」の目線で捉えたときに認識する「大切にしたいプロ意識」は、転職するか否かに大きな影響を与えます。
「今の会社で働くというプロフェッショナル」
「自分が携わっている仕事(専門性)で働くというプロフェッショナル」
仕事は、人生の大半を費やすことです。どちらの自分が、自分に正直でいられるかをしっかりと確認することが重要です。
4.まとめ ~自分らしい選択のすすめ~
今回お伝えした3つのポイントは、それぞれを丁寧に深く掘り下げることで、「自分にとっての仕事とは何か」が見えてきます。
そのために、丁寧に掘り下げた内容を、手書きで書き留めておくことが重要です。
思いついたことをすべて紙に書き留めておかないと、思いついた3分後には忘却してしまうことがあります。この忘却も考えがまとまらない要因でもあるからです。
「スキル」「自分を取り巻く環境」「キャリアの軸」は、いずれも出来事(客観的)としての見方ができる一方で、それに紐づく感情的(主観的)な見方もできます。
「出来事」と「感情」を見える化できれば、迷いのボトルネックがどこに存在しているかを確かめることができます。
迷いの渦中にいるときは、頭の中で「出来事」と「感情」が縦横無尽に動き回っている状態です。一つひとつを捉え、それぞれを評価してしまうから、「転職した方が良い」「転職しない方が良い」と考えがまとまらなくなってしまうのです。
3つのチェックポイントで捉えれば、悩みを「現在」と「3年後」という目線で俯瞰することができます。
かつて、私が転職したときは、このような俯瞰的な目線を持ち合わせていなかったため、転職後に自分のキャリア観を取り戻すために2年という時間を要しました。転換期に、丁寧に時間をかけたとしても、1か月あれば整理できたはずでした。
ですから、キャリアの転換期では、自分のことを丁寧に深く掘り下げることが重要だと確信しています。
遠くから見つめることで、転職することになろうが、今の会社に留まろうが、自分の人生にとってベストな選択ができます。
キャリアの転換期において、自分を丁寧に見つめ直すことが、自分らしい選択につながります。自分らしい選択ができれば、キャリアの転換期における選択に失敗はないのです。