今日発行の日本経済新聞で、「転勤制度を社員が納得しやすいものに」という社説を目にしました。「働き方改革」「時差BIZ」など、一昔前ならば話にもでなかった個人の働き方にかかわる社会的な動きが変わりつつあります。
社説は、「親の介護や育児がしづらくなるなどの理由で、転勤をしたくないと考える人はいまや少なくない。転勤のあり方が問われているといえよう。」というパラグラフから始まっています。
多くの経済人が目にする社説で、このような記事が掲載されること自体、20年前では考えられませんでした。
この社説の結びでも、「日本企業は社員に、長期の雇用を保障する代わりに残業や転勤を求めてきた。残業の削減に加え、転勤の制度の見直しも進み始めれば、正社員の雇用のあり方も変わっていく可能性があろう。」としています。
おそらく、これから「働き方の選択」について、徐々に変わっていくものと考えます。しかし、多くの企業は「転勤」という人事施策が「あたりまえ」であったわけですから、すぐに変わるわけではありません。
変化の過渡期における備え方について、考えてみたいと思います。
【目次】
1.世代・役割による転勤の意味
転勤は、そもそも、仕事が属人的にならないようローテーションさせるという目的があります。ローテーションによって、仕事が活性化することを期待するということです。
業績を上げた人は、その経験やスキルを他の部署で発揮することで組織の成長が期待できます。業績があがらなかった人は、その人の力を発揮できる他部門に移ってもらい、キャリアの再生を期待します。
一方、人材育成の観点では、世代やその人の担う役割によって、その意味は大きく異なります。
20代の転勤は、異なる仕事に就かせることで、その人のキャリアの方向性を確かめるという意味があります。その人の特長をある程度捉え、場合によってはあえて希望しない部署に転勤させることもあります。
30代の転勤も、20代のそれと同じような意味がある一方、将来の幹部候補となりうる人材に武者修行させるという意味をもったものがあります。会社は、30代から徐々に次世代幹部を意識し始めるのです。
40代の転勤は、文字通り、役割が重視されます。次世代幹部、中間管理職、専門職(部下なし役職者)、一般、の4つに分けて考えられます。難しいのは、その色分けがはっきりしているようで、はっきりしていないところにあります。
とくに40代前半において、次世代幹部、中間管理職、専門職(部下なし役職者)の間を行き来する育成的な転勤がありうるのです。いわば最終試験に近いものです。
仮に、ここで次世代幹部としての転勤があって、いわゆるラインに乗ったと思っても、成果をあげられなかったり、組織マネジメントに能力を発揮できなかった場合、そこから外れることが大いにあります。
他方、中間管理職や専門職(部下なし役職者)としての転勤であっても、自分の持っている経験や知識・スキルを思う存分発揮して、組織マネジメントに能力を発揮できれば、キャリアがその段階でとどまることはないわけです。
2.転勤をどう捉えるか
私は、会社で働くうえで、上のポジションに就くことは責任を負う分、自分の実現したいことに取り組む機会が増えることだと考えますから、それを望むことは良いことだと考えます。
他方、それだけがすべてではないとも考えます。上のポジションでなくとも、自分の持っている価値を発揮することで、自分の実現したいことに取り組むことができるからです。
このことは今でこそ腹落ちしていますが、42歳の当時の私は全く腹落ちさせることができませんでした。
私は、42歳のときに自分が想定していなかった転勤を命じられました。転居を伴うものではなかったのですが、管理職から外れ専門職としての異動でした。当時の自分にとって受け入れがたいものでした。
このことが、きっかけとなり転職を選択しました。正直に言うと、そのときにもう少し自分の役割と価値を冷静に捉えることが必要だったと感じています。なぜならば、転職した後に、前職でやり残したことを悔いてしまった経験があるからです。
そのときに、自分の価値をきちんと自己認識していれば、転職しなかったかもしれません。
自分の想定外の転勤を命じられた場合、それに抗うことは難しいことです。そして、腹落ちさせるには相当時間を要します。悔しい、納得できない、という思いを抱くことはやむを得ないと思います。
肝心なことは、そういう思いを抱いたときにどういう選択をするかということと、転勤という会社都合によるキャリアの転換期にどのように備えるということです。
3.選択基準の明確化と備え
3-1:選択の基準と自分の価値の再認識
自分の想定外の転勤を命じられ腹落ちできない場合、何が原因であるかをつぎの2つのポイントをもとに、冷静に振り返ることが大切です。
まず、最初に振り返ることは自分の選択基準の明確化です。
たとえば、処遇が低くなったということが腹落ちできないとしましょう。この場合、処遇がなぜ低くなったかという理由を探るのではなく、なぜ処遇が低くなったことに腹落ちできないのか、という感情面での理由を探ることが大切です。
処遇が低くなったことによって、他人から軽んじられるから、あざ笑われるから、自分が軽くみられることが納得いかないから、といった理由を探るのです。
この感情面での理由を整理することは、自分の物事の選択基準を明らかにすることにつながります。そして、その選択基準を今後も持ち続けたいか、持ち続けることで得られるもの、失うものはそれぞれ何かを、振り返ります。
もし、持ち続けたくないと感じるならば、選択基準の何を変えればいいのかを内省して、自分のあり方を確かめるのです。
次に振り返ることは、自分が組織に対して貢献できることは何かをあらためて問いかけてみることです。
組織を超えて、社会という枠組みで捉えてもよいかもしれません。貢献できることが明らかになれば、自分の価値とそれをもとにした役割を認識することができます。これは、「結晶性知識」を具体化することと同じです。
この2つのポイントが整理できれば、自分がどうあることを腹落ちして自己認識できます。
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3-2:備え
会社都合によるキャリアの転換期は、いつになるか予想することができません。したがって、それに備えをしておくことが大切になるのです。
と言っても、特別のことをするのではなく、3-1でお伝えした自分の選択基準を明らかにすることと同じことをすればいいのです。
違いは、そのタイミングが有事(この場合、転勤)のときか否かです。
45歳という年齢をキャリアの転換期と捉え、備えとして振り返れば、今の仕事における自分の役割を明確に理解して、行動することができます。
それは、組織において「存在感のある人材」に通ずるものです。
4.まとめ キャリアの転換期を自分でデザインする
どんなことでも、腹落ちできていないと力を発揮できないと思います。キャリアの転換期に迷った私も、今では転職という選択は自分のキャリアにプラスであったと感じています。
転職したからこそ、キャリアのあり方と真剣に向き合うことができました。そして、その過程で様々な価値観をもった方々と知り合うことができ、今まで持ち合わせていなかった知見に触れることができました。
長いキャリアの中で、キャリアの転換期がいくつもあると思います。会社都合の転勤も、自分のキャリアに対する考えが定まっていれば腹落ちして受け入れることができます。
自分を振り返ることで、キャリアの転換期をいかようにもデザインする力が備わります。その力が備われば、自分の経歴のみならず、未来の経歴にも意味づけすることができるのです。
「結晶性知識を活かして、存在感のある人材」になれるのです。